薬物治療(外来治療)
組織
薬物療法は、総合病院内の精神科・心療内科や、他医療機関で経験を積んだ医師が開業した精神科クリニックなどで行われます。カウンセリングルームと薬物療法が可能な医療機関の違いは、国家資格を持った医師がいるかどうかです。
活動・対応
通常の病院と同様に、初診で問診と医師による対面の診察を通して、病名が特定されます。ちなみに、ギャンブル依存症の場合は、正式には「病的賭博」と診断されます。病名が特定されたら、その症状の改善に効果的な薬を医師が選定し、処方します。精神科で処方される薬物は、他の科で処方されるものよりも規制が厳しく、最大で出せる期間が薬によって決まっています。例えば、最大で2週間分しか処方できない薬を服用している場合、2週間に1回は症状が落ち着いているように感じても医師の診察を受け、状態を確認してもらってから、再度処方してもらわないといけません。また、どんな薬でもそうですが、人によって合う、合わないがあるものです。その為、医師は本人の訴えと、定期的な診察を通して、その人に最も合った薬と処方の仕方を、患者さんと共に模索していきます。
メリット
例えば、双極性障害(気分の高揚と落ち込みを繰り返してしまう精神疾患。いわゆる躁うつ病)の人が、気分が高揚している時にだけギャンブル依存症のような症状を呈している場合、あるいは、発達障害の特性がギャンブル依存に関係している場合、それは薬物療法でかなりの改善が見込めるでしょう。この場合、双極性障害の二次症状としてギャンブル依存の様相が表れているだけで、ギャンブル依存症が問題の本質ではないからです。また、職場での過度なストレスや、転職、親しい人の死などといったストレスフルな出来事が引き金となって、短期間でギャンブル依存に陥ってしまったような場合にも、過覚醒や緊張を鎮める作用のある薬を処方することにより、結果的にギャンブル依存が落ち着くといったことはあるかもしれません。
昨今、精神疾患者の多くは、脳の伝達系の不具合など、器質的な問題であることが分かってきました。薬の力を借りて、今の生活をより楽に、人生をより豊かにすることができるのであれば、無理に避けて通らず、活用してもよいのではないでしょうか。ギャンブル依存症の克服は、カウンセリングにせよ、薬物療法にせよ、使えるものは全て試してみるくらいの気概をもち、その試行錯誤の過程で活路が見えてくるものなのです。
活用のポイント
精神科で外来を担当する医師の元には、薬の処方上の理由もあり、絶え間なく患者さんが詰めかけます。これが開業医になると、文字通り休む暇もない程ひっきりなしの診察が続きます。その為、1人の患者さんの診察に時間を掛けていては、その日に薬が必要な患者さんの全てを診ることができません。すると、患者さんによっては、「遠くからわざわざ来たのに、5分の診察で終わってしまった。もう少し話を聞いてほしい。」と不満を抱かれることもしばしばです。そこで導入されたのが、A-Tスプリットという考え方です。A-Tスプリットとは、1人の患者に対して、医師とカウンセラーなどの役割が違う専門職者が、並行して別々に関わることを言います。こうすることで、診察と処方は医師が、話を聞く役割はカウンセラーがそれぞれ担うことができます。薬物療法と精神療法を並行して行いたいという方は、A-Tスプリットを導入している医療機関を利用されることをお勧めします。
ところで、薬物治療に抵抗を抱く人が多い一方で、反対に薬を飲めばギャンブル依存症が治ると誤った認識と幻想を抱いている方もいます。ギャンブル依存症を根本的に治す薬はありません。「発熱」や「痛み」、「吐き気」といった身体の症状を抑える薬はあっても、「ギャンブルに行きたい気持ち」を抑えることのできる魔法のような薬はないのです。ギャンブル依存症者が薬と言う道具にのみにすがって、自分をコントロールしようとすることは、主体性の放棄にほかなりません。結局のところ、どのような行動であっても、それを決めるのは薬ではなく、患者さん自身なのです。
薬物治療は、必要な人に適した活用がなされれば、大きな効果を発揮する治療法ですが、適さない人には効果がない場合も往々にしてあります。カウンセリング同様、その必要性や適応の可否については専門家に相談することが大切です。